東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2904号 判決
一、(争いのない事実)
控訴人が昭和二九年八月五日出願、同三一年五月二二日公告、同年八月三〇日登録にかかる登録番号第四五〇、九九二号「紫外線殺菌器」なる実用新案の権利者であること、右実用新案権の願書に添付された明細書によると、登録請求の範囲の記載は、原判決別紙(五)の図面に示すように、前面に扉1を具えた箱体2内に棚3を数段架設するとともに、該棚の各前端と箱体内の奥面4との間に適当の間隔を設けて、該部分中央に殺菌ランプ5を縦設し、該ランプの背後に反射鏡6を装置し、棚とランプ装置室との間に保護金網7を設けてなる紫外線殺菌器の構造とされていること、および被控訴人らが原判決別紙イ号図面および同図面説明書記載の構造の紫外線殺菌器を「ニユーコメツト紫外線殺菌器」という名称を付して販売したことは当事者間に争いがない。
二 (原判決別紙イ号図面記載の殺菌器について)
前掲当事者間に争いのない登録実用新案第四五〇九九二号(以下本件実用新案という)における登録請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第六号証(実用新案公報を合せ考えると、本件実用新案の要部は、「(一)前面に扉1を具えた箱体2内に棚3を数段架設するとともに、その棚の各前端と箱体内の奥面4との間に適当の間隔を設けて該部分中央に殺菌ランプ5を縦設したこと、(二)ランプの背後に反射鏡6を装置したこと、および(三)棚とランプ装置室との間に保護金網7を設けたこと」にあることが認められる。控訴人は、棚とランプ装置との間に設けた保護金網は本件実用新案の構成上の要件ではなく、第二義的なものにすぎないと主張するが、前掲甲第六号証によると、この保護金網を棚とランプ装置室との間に設ける構造は本件実用新案の図面には勿論登録請求範囲の項にも明記しており、その説明書には、その作用効果として、「棚の前端には金網7を張つているため棚上に器具を載置する場合誤つて殺菌ランプを破壊する危険がなく安全である」と記載してあることが認められ、なお同号証中の「従来戸棚式の箱体内に紫外線殺菌ランプを装置した殺菌器はすでに公知に属しているがその殺菌器においては、殺菌ランプが戸棚内の天井に沿い網棚に平行して設けてあるため、最上段の棚上に載置された器具類にはよく紫外線が当り殺菌の目的が達せられるとしても下方の棚に載置される器具類には紫外線の照射がすくなく殺菌を完全に行うことのできない欠点があるところ、本件実用新案においては、これを改め、殺菌ランプ5を棚3の各前端と箱体内の奥面4との間に適当の間隔を設けて該部分中央に縦設しランプの背後に反射鏡6を装置する構造としているため各棚上に紫外線が均等に当り、その殺菌の目的を十分に達する効果がある。」むねの記載によるとこの特別の効果は、構造上右のとおり殺菌ランプ5の位置を改めたことによるものであるが、このようにすると、一方で器具等を棚上に載置する場合誤つて殺菌ランプ5を破壊する危険が従来の殺菌器におけるより必然的に多くなることはみやすいところであるので、これを防ぐために棚3の前端に保護金網7を張るにいたつたものであることが容易に推認できる。以上の点を考え合わせると、本件実用新案において保護金網を棚とランプ装置室との間に設けることは、決して第二義的なものでなく、その構造上欠くことのできないものであり重要な構成要件であると認めざるを得ない。したがつて、控訴人の右主張は採用し難い。しかして、原判決別紙イ号図面記載の殺菌器が棚と殺菌ランプ装置との間に保護金網を設けていないことは控訴人主張の同号図面説明書の記載自体から明らかであり、この点において右イ号図面記載の殺菌器は本件実用新案における要部の一つを欠くものであるから、進んでその他の要件について検討するまでもなく、右イ号図面記載の殺菌器は本件実用新案の技術的範囲に属しないものといわざるを得ない。したがつて、右イ号図面記載の殺菌器は控訴人の実用新案権を侵害しないものというのほかなく、被控訴人らが右殺菌を販売して控訴人の権利を侵害したことを前提として謝罪広告文の掲載を求める控訴人の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないものというべきである。
三 (原判決別紙ロ号図面記載の殺菌器について)
被控訴人らは原審において当初原判決別紙ロ号図面および同説明書記載の構造の殺菌器を販売したことを認め、後にこの自白を撤回したことが記録上明かであるが、原審証人山中一当審証人吉田実の各証言および弁論の全趣旨によると、被控訴人ら販売にかかる紫外線殺菌器の製造元である株式会社吉田製作所は右ロ号図面および同説明書記載の構造の殺菌器を製造したことはなく、したがつて被控訴人らは右ロ号図面および同説明書記載の殺菌器を販売したことはないことが認められ、右認定を動かすに足る証拠がないから、被控訴人らがした前記自白は事実に反し、特別の事情の認められない本件においては錯誤にもとづいてされたものと推認すべきであり、被控訴人らの自白の取消は有効というべきである。したがつて被控訴人らが右ロ号図面および同説明書記載の殺菌器を販売したとして謝罪広告を求める控訴人の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。
四 (結論)
以上説示のとおり、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がない。